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3.つかず離れずの永遠だったもの
僕は春の始まりに一度だけ、外に行ったことがあるらしい。
日も暮れた頃にようやく日記代わりの紙を読み終えて、外に行きたいと我侭を言った。
葬儀屋はただの一度だって、首を縦には振らなかった。
過去の僕と今の僕との違いは、一体なんだったのだろう。
24時間で僕の記憶はリセットされる。
つまりここでどんな綺麗なものを見たって心が働いたって、僕はどこの生態系にも混じれない。今の僕は単なる点だ。それを思い知る作業にも、もう疲れた。
「葬儀屋さん」
「なんだ?」
「あなたの仕事を教えてください」
「そこに書いてるんじゃねえのかよ」
葬儀屋は、僕が手に持っている日記を顎でしゃくるように示した。
「あなたから直接聞きたいんです」
葬儀屋は渋々、口にした。
彼の仕事は、亡くなった依頼人をこの世に未練無く、送り届けること。遺される人の悲しみを癒やし、前を向かせること。
記録と寸分違い無い説明を聞いて、僕は頷いた。
「ありがとうございます。よくわかりました」
ふと窓の外を見た。僕はここから広がる空が、ずっと前から好きだったような気がする。
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