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「本当は、もっと早い段階からわかっていたのかもしれませんけど。僕は僕のために、紙には書かなかったのかもしれません」
独り言だった。葬儀屋は何も言わなかった。
「本当に死んだのは、家族じゃなくて僕なんですね」
葬儀屋の表情は止まった。聞こえるはずもない僕の心臓が早鐘を打ち出す。彼は拳を堅く握った。喉がゆっくり動くのが見えた。
なぜだ、と。
「大それた理由は無いですよ。物事を深く考えるのは苦手なので」
強いて挙げるなら、膨大な量の日記の中で食事については何も触れられていないこと。そこから導き出される、気づかなかった空腹感の欠如。
夜中の街中で歌ったと書いてあるのに、周囲から怒られたとも書いていない。それは僕の存在が認知されていない証拠ではないか。
あとはもう、思いつきの数々だった。偶然とも捉えられる。葬儀屋には悪いが、かまをかけたにも等しい。
「あなたの仕事は、僕をきちんと葬ることだった、と」
「……ひどい状態だったよ、お前は」
絞り出すようにして葬儀屋が言った。
紙の記録によればこんな時、いつも彼は煙草を吸うはずだったが、取り出す気配も見せなかった。
「そんなにですか」
「人は死を自覚すると成仏するんだ。でもお前の場合は……ひどくグチャグチャになった意思や未練が溢れ出ていたから、悪い形でこの世に留まっちまうことは明白だった」
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