第1章 霊能師 稜ヶ院冬弥

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「車の回りに黒い影……もやのようなものが漂っている。まるでタールのようにどろどろとした。深い怨念、嘆きを感じる。気の毒に、あれに捕らわれ引きずりこまれてしまったんだ。車のそばに二人の男女……ううん、もう一人いる。女性の腰のあたりにしがみついている小さい影。赤ちゃんだ。その赤ちゃんを含めて三人。赤ちゃんはまだこの世に生を受けていない。間違いなく事故で亡くなった女性のお腹にいた子ども」  冬弥は痛ましい表情でテレビの画面を食い入るように見つめていた。  そう、冬弥は幼い頃から人には〝みえないもの〟が視えてしまう性質を持っていた。  こういった事故や殺人事件などのニュースを見てしまうと、亡くなった、あるいは殺された人物の背景が視えてしまうから普段は視えないように能力を遮断している。  だが、こうしてふとした瞬間にうっかり視てしまうことがある。 「赤ちゃんか……かわいそうに」 「二人ともひどく痛みを訴えながら助けを求めている。自分たちが事故で死んでしまったことに気づいていない」 「そうか。で、どうするのだ?」 「どうするって、僕には何もできないよ。あの現場にいれば話は別かもしれないけれど」  これ以上は見ていられないというように、冬弥はリモコンを手に取りテレビのチャンネルを変えてしまった。 「師匠なら遠隔で意識を飛ばしてあの人たちと接触することも可能だろうけど、僕にはそんな高等な技は無理。もっとも、こういう事件があるたびそんなことをしていたら、こっちの身がもたないしね」 「それもそうだな」 「かわいそうだけど」
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