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しゃらん、という金属音が、遠くに聞こえる。
何の音?
疲れているんだ。もう少し、このまま寝かせて。
しゃらん。
再び聞こえたその音に、冬弥はゆっくりとまぶたを開いた。
まだあたりは暗い。
何時だろう? 枕元のスマホの時計を見ようとして、先ほどとは違う、がさりという物音に気づく。
障子の向こう板間の濡れ縁が、ぎしりと歪む音をたて、黒い何かがゆらゆらと動いている姿が見えた。
誰だ?
音の正体を確かめるため布団から起き上がろうとするが、ぴくりとも身体が動かなかった。
指ひとつさえも。
金縛りだ。
目覚めた冬弥に同調して側で丸くなって眠っていた孤月も目覚める。
眠たそうに目元をこする仕草は生きている人間そのものであった。
「冬弥、眠れないのか? わかった。その寝間着がよくないのだな。きちんと洗っているようだが加齢臭がするぞ」
『違うよ。金縛りだ』
声を出すことができないため、心の中で孤月に答える。
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