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家全体をうっすらと覆っていた影。
それが玄関に入るなりさらに濃く感じられた。
家中に漂う不快な気配と重苦しい空気。
少しでも霊感がある者ならこの空間にいることじたい、息苦しさを抱くだろう。
「さっそくですが家の中を見て回ってもよろしいですか?」
冬弥は鞄から数珠を取り出した。
「ええ、どうぞ。お願いします」
冬弥は植村さんの承諾を得て、一通り家全体を見て回った。
やはり、幸恵さんの植村良子に対する強い思いと気配が漂っている。
嫉妬。
羨望。
そういった感情がそこかしこに渦巻いていた。
夫婦の寝室。
子ども部屋。
客間。
どの部屋からも、幸恵さんの存在が残されていた。
一通り家の中を見て回り、最後にリビングに入った冬弥はああ、と声をもらす。
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