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寄ってみたいと言い出した妻であったが、車から降りた途端、無言になってしまった。
木で作られた鳥居は崩れて傾き、辺りは雑草が伸びて鬱蒼としていた。あきらかに手入れがされていないことは瞭然であった。
「ずいぶんと荒れた神社だな」
「ちょっと気味が悪いわ」
生い茂る雑草の向こうに社とおぼしき小さな建物が見える。その社も形を崩し壊れかけていた。
「行ってみる?」
「ん……やっぱりいい」
目の前の社から視線をそらし首を横に振る妻に、男はほっと胸をなで下ろす。
どうみたってお詣りをしようという気になれない雰囲気だったから。
二人は顔を見合わせた。
「帰ろうか」
「そうね……」
神社に背を向け歩き出す。
すっかりと日も暮れ辺りに暗闇が落ち始めた。
状態の悪い地面に妻が足をとらわれないよう、男は妻の腰に手をあて止めてある車へ戻っていく。
やっと車にたどりついた男は一度だけ背後の神社を振り返る。
突如、背筋をかけぬけていった悪寒にぶるっと身を震わせた。
急いで車に乗り込みエンジンをかけ発進させる。
思っていた以上に峠はカーブがきつく、対向車がきたらすれ違うのもやっとだ。
もっとも、その対向車すらやって来る気配もないが。
口数の減った妻の様子が気になり、男はちらりと助手席に視線を走らせる。
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