第1章 霊能師 稜ヶ院冬弥

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 食欲をさそうにおいが部屋中にただよう。  エプロン姿でキッチンに立っているのはまだ若い男性だ。  年の頃は十八、九。  短髪に細身の身体、整った顔立ち。  名は稜ヶ院冬弥(りょうがいんとうや)。  都内の大学に通う学生である。 「よし、できた」  茹であがったパスタを皿に見た目よく小高く盛り、昨晩からじっくりと煮込んだソースを惜しげもなくたっぷりとかける。  今日の昼食は牛すじ肉のラグーソースパスタにニース風サラダ、ブイヨンから作った本格コンソメスープ。  デザートはレモン風味のレアチーズケーキ。  どれも全部、手作りだ。 「昼から手の込んだ食事だな」  キッチンに立つ冬弥の横で、十歳前後の小さな少女が感嘆の声をもらす。  真っ直ぐな黒髪にほっそりとした顔立ち。  白い肌にほんのりと赤く染まる頬。  できあがった料理を食い入るように見つめる大きな瞳は、きらきらと輝いている。  フリルたっぷりのエプロンドレスがよく似合っていて、お人形さんのように愛らしい少女であった。
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