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食欲をさそうにおいが部屋中にただよう。
エプロン姿でキッチンに立っているのはまだ若い男性だ。
年の頃は十八、九。
短髪に細身の身体、整った顔立ち。
名は稜ヶ院冬弥。
都内の大学に通う学生である。
「よし、できた」
茹であがったパスタを皿に見た目よく小高く盛り、昨晩からじっくりと煮込んだソースを惜しげもなくたっぷりとかける。
今日の昼食は牛すじ肉のラグーソースパスタにニース風サラダ、ブイヨンから作った本格コンソメスープ。
デザートはレモン風味のレアチーズケーキ。
どれも全部、手作りだ。
「昼から手の込んだ食事だな」
キッチンに立つ冬弥の横で、十歳前後の小さな少女が感嘆の声をもらす。
真っ直ぐな黒髪にほっそりとした顔立ち。
白い肌にほんのりと赤く染まる頬。
できあがった料理を食い入るように見つめる大きな瞳は、きらきらと輝いている。
フリルたっぷりのエプロンドレスがよく似合っていて、お人形さんのように愛らしい少女であった。
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