〔Digital encounters〕

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既に温くなったコーヒーの朧な湯気をして、細かい結露が窓に浮かぶと、ガスヒーターで乾いた部屋自体が、しんしんと夜の帳がおりてくるのを示し始めた。真田はパソコンの画面を見ながら、薄味のインスタント・コーヒーを、さも淹れたての熱いドリップコーヒーの如く、ズズズ、とワザと重々しい音を立て、舌にしみ込ませる。  今、真田が眺めているのは自身のブログ。 いわゆるWeb日記としての使い方をしているブログではあるが、自らの個人体験を書き写す記録として、真田はブログを開設したわけではない。 企図したのは[ストーリー]であった。 真田が自身のブログで、物語の素地となるシノプシス(あらすじ)をまず書き、それを公表し無作為のブログ訪問者に提供するというもの。ブログ訪問者は食指が動けば、真田の書いたシノプシスを軸に、訪問者自身が各々考えた物語を書き込んでいく。つまり、真田の作った原案を、複数人でどんどん脚色ないし肉付けさせていき、それらを最終的に真田が一つの完成形に纏め上げる。リレー小説に近い創作ではあるが、連作という形式ではなく、皆から出された物語を分断せずに、要所を押さえながら一つの骨子に繋ぐ、というよりは一緒くたにする。それは真田が訪問者から受け取った物語を一度勝手に紐解き、さらに改変するということ。 詮ずる所、     
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