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「さよならしよっか」
「…え?」
「聞こえなかった?」
「ちょっと何言ってるのかわからないんだけど…」
「だから、バイバイしよって言ってるの」
「なんで、どうし、て…」
「なんでってそりゃ…」
"飽きたから"
「ッッ?!」
一瞬重い体が勢いよく起き上がったがどんどん脱力していき再び布団に引き戻される様に落ちていく。
"また"あの夢を見てしまった…
あれから何年経ったのだろうか、ひーふーみぃ…
「うわ、もう5年…?ははっ…そっか、今日で5年目だから鮮明に思い出しちゃう訳だ…」
着信が鳴り響く、相手は分かっているが今日は初っ端から嫌な夢を見てどうも体が重くて動く気になれない。
暫くして玄関先の重い扉にガチャガチャと音が鳴る、これも想定内であり、扉が勢いよく開く。
「はぁ…やっぱり」
低い声で寝室にため息をつきながら入って来たのは婚約者の彼
「ごめん、今起きたわー」
「その棒読み加減のあたりちょっとは起きてたろ、今日くらいはもっとシャキッとしてくれよ…"萌夢"」
「わかってるわかってる、ごめんなさい今日は大切な日だったね…今準備するからリビングで待っててくれるかしら愁さん」
「ああ、わかった。その間に連絡しておくからな。」
「ん、ありがとう」
クローゼットから淡い桃色のワンピースと黄色のカーディガンを取り出す
先程の彼は藤代愁(ふじしろしゅう)さん、私より2つ上の25歳で若くして自身の会社を立ち上げ経営している社長さんであり、立派なキャリアをお持ちの所謂成功した人だ。
それに比べて私、真堂萌夢(しんどうめぐむ)は学歴も特別上ではなく普通な上に見た目も平均よりちょい下くらいで普通な人生を送ってるつもりだがひょんな出会いから私はそんな彼の婚約者にまで登り詰めてしまった…。今日は双方の御両親との会食があり、内心は緊張している。いやいやほんとにただただ普通の…会社員な私なのでどうしていいかわからない所で悩んでるんですよ。いや、ホントに…
「ホントにこれでいいのかな…」
ため息をつきながらぶつぶつと独り言を始めてしまう私の悪い癖
あんな夢さえ見なければ良かったのに
「よし、セットもメイクも大丈夫…」
「準備出来たかー?」
「今行くー!」
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