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それも、彼の妻が入院していた病室が、外から見える位置から撮影されていた。確認できる女性は彼の妻ではないが、それでも彼は胸がいっぱいになった。
「小鳥は人の思い出を読み取って、その人にとって思い入れの強い光景を優先して再生してくれる。
もしかすると、君が今、本当に見たい光景も紛れ込んでいるかも知れないよ」
そういってテンペリア星人は、彼の頭を優しく撫でた。夢で握手をした時と同じように、その掌はほんのり暖かかった。
幼稚園の外観が目に飛び込んできた。彼の心音が高鳴る。この保育は、まさに彼の最愛の息子の通っていた保育園だった。
映像の中の園児たちはみんな元気いっぱいで駆け回ってたが、見知った顔の園児も保育士もいなかった。
彼は無意識に、愛しい息子の名前を呟いていた。
思わず心臓が掴まれる思いがした。次に映し出されたのは、彼の住む家の玄関だったのだ。
事故以来どうしても運転することができなくなって手放したセダンがガレージに駐車されている。この映像の撮影された時、彼の妻子は紛れもなく生きていたことの証明だった。
映像は続く。今は枯れてしまったプランターの花々は瑞々しく咲き誇っている。妻が手塩にかけて育てていた花だ。
そのすぐ近くには、息子のお気に入りのバケツとスコップ。カラフルなそれらは、今ベランダに置かれているものよりも遥かに真新しい。
玄関のドアが振動し、すりガラスの向こうに人影が確認できた。
間違いなく、それは彼の妻のものだった。
「終わるな。この映像はまだ続いてくれ」
ドアが開いていく。今でも愛しているあの妻の肩が見えた。足でドアを軽く蹴り上げるあの癖が見えた。
その後ろから、小さな長靴を履いた足が覗いた。これは彼の息子の長靴だ。とても気に入っていて、たとえ日本晴れでも履いていた長靴。
妻の長い髪の毛が風に吹かれてなびいている。なかなか顔が確認できない。
もう心臓の音がテンペリア星人にも聞こえてしまうのではないかというほど、彼は興奮していた。
「もう少し! もう少しだけ、この映像が続いてくれ! あと少しで二人が顔を見せてくれる!!」
映像は、切り替わった。次に映し出された光景は、全く見覚えのない外国の海辺だった。
「!!!」
彼は咄嗟にテンペリア星人に顔を向けた。
「頼む! この映像を俺にくれ!」
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