第1章

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 テンペリア星人は、その要求に肩を落として首を横に振ってみせた。 「それは……できない。この小鳥の映像は、我がテンペリア星の今後のために活用されるものだから。  どんな理由があろうと、外部に渡すわけにはいかないんだよ」 「そんな殺生なことがあるか! ここだけ! ここだけでいいんだよ!  俺にはもう家族がいない。せめて、せめてこの映像だけ! 顔すら映ってなかったけど、これだけでも俺にとっては!」  しかし、テンペリア星人の態度は変わらなかった。彼は先ほど涙を流したばかりだったので、泣くことはなかった。  勿論、これまでになく打ちひしがれていたことは、テンペリア星人にだって分かっていた。 「済まない。本当にこれは渡せないんだ。  でも、この映像は僕の母星では誰もがデータベースを通じて共有することが可能だ。だからどうしてもさっきの映像が見たいなら……って申し訳ない。  これじゃあまるで、思い出を泥棒して、更に君まで泥棒しようとしているようなものだね。  だけど、僕はたまたまとはいえど、天体望遠鏡に擬態した小鳥を手にした君に縁を感じているのは間違いないことなんだ。  失った時間は戻ってこないが、僕と母星にいけば、過ぎた思い出も永遠に見返すことはできるよ」  顔を真っ赤にしてテンペリア星人の話を聞いていた彼だったが、やがて呼吸も落ち着きを取り戻すと、何度か頷いてみせた。  そして立ち上がり、しっかりとした足取りで室内に戻っていく。  小鳥は彼の掌から飛び立ち、今度はテンペリア星人の肩に停まった。テンペリア星人もまた、彼の後を追って室内に入った。  彼が真っ暗な部屋の明かりをつけると、そこには仏間があった。妻と息子を遺影が飾られていた。   「これが君の奥さんと子供か。こんなに二人を想ってくれる男と一緒に暮らせたことを、二人もきっと喜んでいたはずだよ」 「そうかな。俺は二人がズタボロになって病院に搬送されて、息を引き取った時に思ったよ。  ああ、もっと二人のためにしてやれることは腐るほどあったのになぁってな。  特に、息子は我慢強い奴で、欲しいおもちゃがあっても俺にいわなかったんだよ。別に高いわけでもない人形だったのに。  それを知ったのは、二人が死んでからだった。妻が毎日書いていた日記にそう記してあったんだよ。
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