第1章

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 妻は俺が気が付かなかった自分の息子の願望に、しっかりと気が付いていたんだなぁ」  そういって、彼は仏壇の近くに沢山置かれているおもちゃを指差した。 「死んでからこんなに沢山買い与えたって、何の意味もないよなぁ」  山盛りになった真新しいおもちゃの前で、テンペリア星人はしゃがみ込んでそのうちのいくつかを手にとった。 「そんなことはないさ。  家族が家族を想う気持ちが、疎まれたり無視されることなんてないもんだよ。  君たちは時に幽霊の存在を信じたりすることがあるようだけど、その有無についてはさておき、死んだ人間だって、残された人々の心の中に、ちゃんと生きているよ。  ほら、何か決断をしなきゃならない時、『ああ、彼ならどう思ってどう動くだろうか』なんて考えてしまうことはあるだろう?  そういう考えをするということは、それこそがその人の内面に亡くなった大切な人が生きている証左さ」  彼は驚いた。目の前にいる異星人に、こうまで人間と同じ考え方が可能なことに、正直驚く他なかった。  考えてみれば、異星人が冷血な侵略生命体という考えは、人類が勝手に構築したものでしかない。  ところが実際には、こうまで温かな考え方が可能な知的生命体で、しかも自分たちの惑星だって自ら作り上げるほどの科学力さえ持ち合わせていることにも、改めて驚嘆した。  恐らくテンペリア星人の口ぶりからすると、目の前の不思議な生命体である彼もまた、大切な人を失った経験があるのだろう。  そして、その悲しみを乗り越え、死というものを受け入れていたのだろう。そう思えた。 「俺、あんたのその言葉を聞いてビックリしたよ。  あんたの惑星の人たちからすれば、乗らなきゃ誰も事故死したりしないような乗り物に依存する地球人なんて理解できないだろうし、  さっきまでどっかであんたらは達観した冷徹な存在だと思ってたんだ。  きっと弱さや甘えなんかないんだろうなぁって、そう思っていた。でも、結局それは種族で一緒くたにしただけの、俺の思い込み。いや偏見だったな。  第一、会って間もないのに、どうしてか俺はあんたをそういう奴だって信じ切っていた。  でも違ったんだな。あんたは俺たち地球人よりも、遥かに先をいっているだけの、優しい人たちなんだよな」  途端に、テンペリア星人は恥ずかしそうに頭を掻いてみせた。
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