第1章

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 まあ楽しかったことばっかりじゃないよ。1900年代後半にドイツに潜伏していた時は、えらい目に遭った。  その頃は一人であばら家に隠れ住んでいたんだが、どっかから情報が漏れたのか、ある日突然大勢の兵隊が僕の元にやって来て。  連れて行かれた先は、SF風にいえば宇宙科学研究所だった。  そこでの生活は楽しくはなかったね。毎日寝る暇もないほどだった。  何をしていたかって? 空飛ぶ円盤の製造に加担させられてたんだよ。  逆らったって開放してはもらえないから、仕方なく協力してやったもんだよ。ただし、その後戦争が始まると、一時的に開発は中断。  そこで隙を見て僕が作った円盤を奪取し、そのまま逃げ出したんだ」  そこまで静かに聞いていた彼は、テンペリア星人に対してつい話を遮って質問を投げかけた。 「あ、じゃあ円盤はどっかに隠されてるのか!? 俺UFOとか興味あって、一度見てみたかったんだ!」  クスクス笑って、テンペリア星人が諭すように話した。 「いや、まあ……あと数時間もすれば君も円盤を見ることはできるよ。居眠りでもしない限りはね」  今度は彼が頭をポリポリと掻く番となった。  円盤の話に食いつきを見せた彼の興味を汲んでか、テンペリア星人は詳しくその説明をする。 「僕が乗って逃げた円盤は、整備不良でね。  どうしようもなく制御が難しくって、しかも溶接が半端だったから、飛んでるうちにどんどん外装が剥がれてしまったんだ。  それらは逃げている間にあちこちに落下したみたいだね。  たまにテレビや新聞で、未知の金属が発見されたなんてニュースを見かけるけど、あれは僕の円盤の一部さ。  最終的に円盤はアメリカのハリウッド近くにある砂漠地帯に落下したんだけど、たまたまそこに米軍基地があったから、そこに乗り捨ててきた。喜んでたよ」  目を輝かせてその話を聞いていた彼だったが、ふいにうな垂れて息子のために買ってきたおもちゃの一つを掴んで呟いた。 「そんな素晴らしくて面白い話、俺は息子にしてやれなかったよ。  あんたみたいに人生経験が豊富で、ユーモアもあって、沢山冒険している父親だったら、どんなにか良かっただろう」  暫く二人は沈黙した。テンペリア星人は、今ここで慰めの言葉を口にしても、それが対して彼の心に響かないのではないかと考えたからだ。
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