第1章

2/20
4人が本棚に入れています
本棚に追加
/20ページ
 夢の世界では、何だってできる。誰とだって会うことができる。好きな人。嫌いな人。もう二度と会うこともできない人だって、夢では会うことができる。  こうして昼間からだだっ広く閑散とした部屋で大の字になって眠っているこの冴えない見た目の中年男性だって、当たり前のように夢を見ることができる。  彼は眠りが深く、一旦横になってしまえばすぐに意識を失ってしまう。この日、窓の外から聞こえる雨音も、彼の眠りを誘う要因だった。  目の前に光が広がっていく。彼が気がつくと、周りはあまねく星々に囲まれていた。  すぐ横を、青白い尾を引いた流星が通過していった。体はまるで重力から解き放たれたかのようにふわふわと浮かんでいる。  彼はすぐに銀河の美しさに魅了されていったが、しばらくすると遠くから彼の名を呼ぶ声に気がついた。  目を凝らして見てみると、足場もないような宇宙を、器用にスタスタと歩いてくる何かがやってくる。  その何かは、全身に銀河系の景色をまぶしたかのような、捉えどころの無い不思議な模様をコーティングしたかのような姿の人間だった。  彼は驚いた。無理もない。その体はまるで保護色のように、周囲の光景と同化しているようにも見えたからだ。 「やあ、君が来るのを、僕は待っていたんだよ」    その不思議な姿の何かがフランクに挨拶し、握手をせがんでくる。彼が恐る恐る差し出された掌を握ると、じんわりと暖かさを感じることができた。   「君は今日、天体望遠鏡を買ったろ? あれは実は、僕たちの星と交信をするためのツールなんだよ。  しかし、本来はしかるべき機関に預けていたはずが、どういうわけか紛失してしまった。それでこれまたどういうわけか、それがお店に並んでいたのさ」    そうだ。この不思議な人間のいうように、彼はその日、気まぐれで天体望遠鏡を購入していた。  というのも、彼はこれといった趣味を持たず、仕事が休みの日であっても、このように惰眠を貪ることしかしなかったからだ。  そんな休みの過ごし方は健全とはいえない。そこで彼は一念発起して、少々高い初期投資をしたばかりだった。  これを聞いた彼は、即座に質問した。 「え? ああ、じゃあ今日買った望遠鏡は盗品だったのかい? それなら使うわけにはいかないな。持ち帰ってくれよ」
/20ページ

最初のコメントを投稿しよう!