第1章

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 目の前のテンペリア星人にわなわなと震えてそう答える彼だったが、下手に騒いで近所にまで狂ったと思われても敵わない。叫び出したくなる気持ちを、グッと堪えた。  堪えつつ、彼はSF作品の異星人の描写にありがちな凶悪な光線銃なんて持っていないかどうかが不安だった。消し炭にされては堪らない。  そんな警戒心を悟ったのか。テンペリア星人は両手をひらひらさせる。 「武器なんか持っちゃいないよ。第一僕の目的は、その望遠鏡の回収だったからね。  ただ、君が折角お金を払って買ったんだから、少しは星を見せてあげようと思ったのさ。どうだい、満足できたかい?」 「満足できたといえばそうだけど、ちょっと虚しくなってしまったかな」  彼の返答が予想外のものだったからか。テンペリア星人は首を傾げて少しだけ声を詰まらせた。  いうべきか。いわざるべきか。彼がどうして虚しくなってしまったのか……その理由は極めて個人的で、たとえ相手が宇宙人だとしても、他人事の押し付けになりそうに思えた。  しかし、そんな彼の様子に興味を抱いたテンペリア星人は、自分の登場に驚いてからこっち、延々尻餅をついたままの彼の隣りに腰掛けた。 「もしも面倒じゃなかったら、教えてくれないか? この無限に広がり、美しく存在し続ける大宇宙を見ていて感動こそすれ、虚しくなる理由が僕には理解できないんだ」  案外テンペリア星人は、地球の人間とよく似た情操を持っているのかも知れないと、彼は思った。  ここで判断するのはまだ早計だが、もしかすると地球外生命体なんて本質的には地球人類とさほど変わらないのでは? と感じられた。  そしてまた、折角相手が聞き耳を立てて(耳など見当たらないが)くれているのに教えないのも地球人の恥と考え、彼は自分の身の上話を披露することにした。 「あんたには家族って概念はあるかい?」 「家族? もちろん存在しているよ。僕は沢山の兄弟に囲まれて育った。彼らは皆博識で、僕なんかよりも遥かに頭もいいんだ。  彼らはまさに、僕の自慢の家族だと自負しているよ」  沢山の兄弟。テンペリア星人は大家族ということだろうか。彼は自分の真横にいる不思議な生命体が、何十人も暮らしている家のことを漠然と想像した。 「そうか。俺には兄弟はいなかった。代わりに父親と母親、そして妻子があったんだ」 「妻子? 両親とは何か違うのかい?」
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