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涙と笑い
幸也の飼ってた猫が死んだ。それは一月の寒い冬の朝だった。
幸也が起きて居間を覗くと、いつも擦り寄ってくる猫が来ない。それに違和感を感じ名前を呼びながら、部屋中を探し回った。
「ゆずー?」
ゆずは弟の部屋に居た。居間から一番近い弟の部屋にいたから、すぐに見つかったはいいが扉のすぐ側に横たわっていた。
名前を呼んでも反応がないのだ。
「おい、ゆず?どうかしたのか」
名前を呼んでも起きなかった。近寄って触ってみるともう冷たかった。その瞬間涙がポロポロと出始めた。
「ゆ…きと」
思わず寝ていた幸人に抱きついた。幸人は泣きながら抱きついてくる幸也を、心配そうに眺めながら抱きしめ返した。
「兄ちゃん、どうしたの?」
「ゅ…ずが……」
まだこのことを受け止めきれない幸也は、ゆずがどうなっているか言葉に出来なかった。
「ぅし…ろ…」
それでも頑張って伝えようとした。家族は皆ゆずが大好きだ。悲しいのは皆同じだ。
「ゆず?ちょっと布団で待ってて」
幸人はゆずを抱き上げて布団に戻ってきた。抱き上げたゆずに二人で泣きながら『生きてくれて、ありがとう』と声をかけた。
「…父さんたちにも知らせに行こうか」
「そ…だね」
二人とも声が震えていたが、お互い様だったので気にしなかった。
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