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「…えと、伝えたいことある?」
「こちらこそ拾ってくれてありがとう、大好きだよって言ってほしい」
「この声は俺にしか聞こえないの?」
もしこの声が幸也以外にも聞こえるならば、その言葉は直接言ってあげて欲しかった。その方が嬉しいだろうから。
「どうかな、みんなの前で喋ってみたら分かるけど、聞こえる人は聞こえるんじゃない?」
出てきた答えはなんとも曖昧な答えだった。誰も聞こえる人がいなかったらどうしたんだろう。
「さっそく、やってみるか?」
「やってみよう」
姿が見えない猫を連れて幸人の部屋にやってきた。最近は友達と遊んでばっかだから、居るかは分からなかったがノックをして扉を開けてみた。
「ん、兄ちゃんどうしたの?」
「こんにちはー」
「えっだれ?」
幸人にもちゃんと聞こえるみたいだった。
「猫のゆずです」
「兄ちゃん、なんか隠し持ってない?」
幸人は意外なところを疑ってきた。
「持ってないよ」
「じゃあゆずと仮定した誰かさん」
「誰かさん?あ、はい」
誰かさん呼ばわりに疑問を持つゆずだが、それを華麗にスルーした幸人は質問を続けた。
「僕がゆずに最後に言った言葉は?」
「生きてくれてありがとう」
「君から仮定という文字を外そう」
幸也にしたように、感謝をみんなに伝えたいと幸人にも説明していた。
「母さんたち信じてくれるかな」
「大丈夫なんじゃないかな」
ネガティブな幸也に比べ、ポジティブな幸人はもうゆずの死を受け止めていた。だから通常運転になっている幸人が、少しだけ幸也は羨ましかった。
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