フリーズします

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「....またか」 下駄箱にメモを入れるという古典的な嫌がらせは、これで3日目に入った。テスト2日前。 「そりゃアンタ、役得なんだよ」 食べる?と差し出されたのは、スルメイカ。 咀嚼することで食べる量が減って...とアツく語られたが、飽きっぽい姉に効果が出るとは思えなかった。 「大輝くんとは生徒会で一緒、皐月くんとは幼馴染み」 「どうしてそこで皐月が入る」 「いやー、皐月くん、高等部でも人気あるよ?最近デビューしたアイドルに似てるとかで」 あいつがアイドル? きらきらの衣装を着て、オンチな歌声。運動会のダンスだって満足に踊れないのに。 想像して、吹き出してしまった。 いよいよ止められなくなって、リビングに笑い声が響く。 姉はわざとらしく溜息を吐くが、もう慣れてしまった。 「まあ、実害が無いんならそれでいいんじゃない?」 そういえば、あの時のアイツの言葉の意味をまだ解読できていない。 「まあね」 スルメイカの塩気が、口の中を満たした。 結論から言おう、実害はあった。 私の反応が面白くなかったのか、今度はスニーカーに雑巾が詰め込まれていた。 テスト前日だというのに、なかなかにご苦労なことである。 そこそこ気に入っていた新品のスニーカーから、湿った雑巾を取り出す。 やはり名前は書かれていない。真っ黒だから読めないのかもしれない。 「お前、何それ」 壮行会の打ち合わせで居残りしていたから、校舎内に人影はほとんどなかった。 なのに、どうして 「心当たり、ないの?」 これ、本人に訊いても意味ないやつだったっけ? 「アンタが関係してんじゃないかって言われたんだけど」 「...ごめん」 いつにも増して建設的な言い合いじゃない。 それにしても、どうして視界が霞むんだろう。 涙? どうして? お気に入りのスニーカーが台無しになったから? 帰るに帰れないから? テスト準備の予定が狂ったから? 「今日は一緒に帰らないから」 靴下のまま、段差を降りる。 砂まみれ。 白い靴下に、黄土色か。 あと何歩分我慢すれば、自転車置き場にたどり着けるのだろう。 「俺は嫌だよ」
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