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屋根のように伸びた桜の木の下で、時計を確認すると、そろそろあの人が来る時間だった。ひらりひらひらと数枚の花弁が、僕の前髪をかすめながら舞い降りてきて、軽く手でそれを払う。
こそばくてプルっと肩をあげた時、その人は現れた。
「こんにちは。善君?」
その人は、写真で見たあの頃よりも、ふっくらとした顔つきになっていて、年齢を考えるとそれよりも若々しく見える。だけど、白い膝下のプリーツスカートの前にある、ハンドバッグの持ち手を包みこんだ、両の手に目をやると、やっぱり50代の女性だなと感じた。
「はい、こんにちは……」
今日、彼女と僕は18年ぶりに再会した。
舞い散る花弁の下で、申し訳なさそうに微笑んだその人は、僕の母親だ──。
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