申し訳なく咲き誇る

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「この街も、随分変わってしまったね。善君、お昼食べるでしょ? あそこの喫茶店、まだやってるのかしら? あそこの鉄板スパゲティが美味しかったよね」  すぐ斜め前にある喫茶店は、昔ながらの鉄板スパゲティがとても美味しい。母親と行った記憶は、もう僕の中からは消えていたけど。 「あ、やってますよ。じゃぁ、そこにしましょうか……」  母親に敬語を使うなんておかしいのかもしれない。  しかし18年振りの母親は、変な話、何処にも属さない立場である。親戚より、下手したら先生よりも、職場の先輩よりも、遠い存在になっていた。  会えと言われたから会うだけだ。一度会えば父もこの人も気が済むだろう。  僕は大人になった──。これからは家を出て、都会で暮らす予定だ。最後の親孝行だと思ってここに来ただけなのだ。
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