2人が本棚に入れています
本棚に追加
こんな会話を三十路のオジサンが間近で盗み聞きしていたと知ったら、彼らはどれだけショックだろう。
私にはプライバシーの尊重という職務上当然の義務がある。それを無視して出歯亀をするからには、相応の理由が必要だ。
私はいま、その理由を自分で自分に説明するための文章を書こうとしている。どうかしていると我ながら思う。
突然だが、話は三週間前にさかのぼる。
三週間前、私はこの北の観測所に赴任してきた。前任者がここでの仕事の孤独さと退屈さに耐えかねて辞職した(と私は想像している)ので、その後釜だった。
観測所は町外れの小高い丘の上にあった。
古めかしい鉄筋コンクリート製の三階建ての建物で、四角い一階部分の上に円形の二階部分があり、さらにその上に巨大なアンテナが乗っかっている。二階は一周ぐるりとガラス窓になっていて、周囲の景色が見渡せるようになっている。その昔は観光客などが訪れた時代もあったのかもしれない。
観測所の人員は2名。所長と私だけだ。ただし所長は別の施設の長も兼務しており、週に一度しかここには来ない。そのため実質1名だったりする。
最初のコメントを投稿しよう!