ある衛星看視員の手記

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私はまず、地球圏の衛星の看視という職務を与えられた。それはこの観測所が作られた目的でもある。 ここでいう『衛星』とは人工衛星のことで、22世紀以降の移民バブル期にさかんに作られた数万人規模の居住用衛星のことだ。その多くは地球上の特定の地域や都市を再現しており、土の地面や空まで備えている。現代ではとうてい考えられない大がかりなものである。 もちろん、無数にある衛星を人間の目で一つひとつ確認したりはしない。ほとんどの作業をやっているのはコンピュータだ。 何か問題が起きていたら中央管制室のモニタにアラートが表示されるので、状況を速やかにとりまとめ、役所に相談のうえ防衛庁に報告するのだ。 防衛庁に報告などと書くと責任重大のようだが、一週間もたたないうちに、私はこの仕事に飽きを感じ始めた。 報告するようなことなど、起こらないのだ。
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