第1章

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 「あんながどろぼうなんてする子じゃないってことは、みんな知ってる。あたし、国会議事堂で証言してもいい」  「みずき!」  だきついて、あんなはひとしきり泣いた。やばい、こっちの鼻までぐずぐずしてくる。けど、あたしは弱っちい女の子はごめんだからがまんした。  あんなは顔を上げて、続きを話した。  「そのあと、大騒ぎになっちゃった。みんな次々リビングに入ってきたけど、誰もテディベアを持っていなかったの。  リビングの全部をてってい的に探して、おたがいにボディチェックまでした。バッグやポケットもひっくりかえした。最後には、服やくつ下をぬいで、ほかの人の前でぱたぱたふったのよ。わたしもそうした。先生はやめなさいって止めたんだけど、みんな気がすまなかったし、断れるふんいきじゃなかったし。  先生は、『ホントは大したものじゃないから、気にしないで』っていったの。でも、そうじゃないことは、みんなわかった。先生がっくりしおれちゃって、目にいっぱい涙をためてたんだもん。パーティーどころじゃなくなっちゃった」  「けっこう、今ごろ見つかってたりして」  明るめにいってみたけど、あんなは暗く首を横にふった。  「ゆうべもおかあさんが、電話で先生に聞いてくれたの……まだなんだって。  先生の悲しそうな顔を思い出すたび、わたし、胸がどきどきする。それに、あのたんぽぽさんの顔……こわかった。あんなにこわい顔した人って初めて見た。とても、お教室になんて行けない。でも、行かなかったら、ますますうたがわれるんじゃないか……そんなこんなで頭がいっぱいになって、夜もいろいろ考えちゃって……」  「で、寝ぼうするのか」  あんなはまた、ハンカチの中に顔をうずめた。  腕を組んで、あたしは考えこんだ。  果たして、犯人は誰だ?   この前読んだマンガが、ちらっと頭をよぎった。  「ねえ、窓は開いてた? 光るものの好きなカラスが窓から入ってきて、くわえて飛んでいっちゃったとか? それとも飼ってた犬やねことか、オランウータンが持っていったとか?」  あんなはにこりともしない。またもや首を横にふった。  「窓は閉まってた。もう夜だったし、寒い日だったから、だんろが燃えていたんだもん」  「げ、だんろ! そいつはゴーキだぜ」  時代劇で最近覚えた言葉が出た。だんろって、豚とか丸焼きにしたりするやつだよね?
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