第1章

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 必死にゆさぶったけど、あんなは動かない。たましいがどっかいっちゃって、ここにいるのはぬけがらだ。ダメだ、こりゃ。  あたしは目をつぶって、ふんと鼻息を吐いた。ついに、防犯ブザーのひもが引きぬかれた。  「あれ?」  目を開けた。  鳴らない。  かち、かち、かち。今度は横のスイッチを、指が白くなるほど力をこめて押した。  鳴らない。  男は笑った。コートのボタンを上から順番にはずしながら、だ。  「電池切れじゃねえの? 遊びで鳴らしていると、本番のときに鳴らなくなる」  そういわれれば、一年生のときにもらってから、電池なんて一回も交換してない。  もう一度スイッチを押した……ダメだ。やっぱ鳴らない。  そんなこんなの間に、コートのボタンは全部はずされた。  あたしは、防犯ブザーを投げすてた。フリーズしたままのあんなを背中にかばって、ボクシングのポーズでかまえた。声がうら返らないように、おなかに力をこめた。  「なんだこのヤロー、ぶんなぐる!」  あたしなんかまるで無視して、男はコートをするするぬいだ。  ぬいだコートを肩にかけて、腰をかがめた。  息を止めて、目をそらせようとした。でも、見ちゃった……ちゃんとシャツもズボンも着ているし、ファスナーも閉まっていた。  「なんだあ」  あんまりにもほっとしたんで、あたしの全部がほわほわした。  男がたずねた。  「君たち、五小の子? だったら、相川みずきさんって知ってる?」  あたしはぱちくり、まばたきをした。  「あたしだけど」  いってしまって、自分の口をおさえた。しまった、油断した、個人情報流出だ。  「だろうと思った。その顔、昔のおかあさんそっくり」  男は笑って、あんなのとなりに座って足を組んだ。  あんなはまだ固まっている。彼女のたましいは、あいかわらずどっかでふわふわしてる。  あたしは叫んだ。  「あんなに、さわるな!」  男はびくっと、西部劇でピストルを向けられた人みたいに両手を上げた。  「さわってないって。ちょっと落ち着いて話をしようじゃないか。みずき、おれだよ」  サングラスをとった。  あたしはまゆ毛と目をしかめて、男を見た。ほおやあごやおでこに、細かな傷あとがいくつも白くついている。フランケンシュタインってほどじゃないけど、確かにいっぱいある。あたしはまっとうな小学生なんだよ。こんな傷あとや金髪に、見覚えあるわけない。
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