第1章

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 でも、でも、でも、頭の中がもやもやしてきた。どっかで見たこと……。  首をひねったら、ぽろっと出た。  「おとうさん?」  あんながひゅっ、と息を吸いこんだ。ようやくたましいがもどったみたい。  「みずきのおとうさんって……その……みずきが小さいとき」  こくこくこくって、あたしはきつつきみたいにうなずいた。  「うん、死んだよ。保育園のとき」  だから、おとうさんのことは、正直あんまり覚えてない。写真で見たことがあるだけ。  「残念ながら、おれはおとうさんじゃない。しかし、かなり近いぞ。瓜を二つに割ったようって、昔はよくいわれた」  男はあごのぶしょうひげをさすった。  「おれは、おとうさんのにいさんだからな」  あたしの頭の中の歯車が、かしゃかしゃ動きだす。うっすら思い出す。ティッシュにくるまれたようなたよりない記憶。一枚一枚ティッシュをはがす。すると、いろいろ出てきた。  おとうさんのおにいさんってのは、確かにいた、おじいちゃんとおばあちゃんの息子で、おとうさんが亡くなったとき、つまり、あたしが保育園の年長さんのころ、なぜだかいなくなっちゃった、これはあたしの記憶じゃなくって、おかあさんとかに聞いた話かも、区別がつかない……ごしゃごしゃになって頭をかかえた。  「じゃあ、あたしのおじさん?」  男はななめ上を向いて、あごをさすった。  「うーん、それはそうだけど、その呼び方は趣味じゃない。そうだな、ひぐっちゃんで、いいや。呼んでみて、みずき」  まだあたしの頭はごしゃごしゃだったので、つっこみの機能がうまく働いてなかった。で、いわれたとおり呼んだ。  「……ひぐっちゃん」  「はーい」  にやにやして、男は片手をひらひら上げた。  はった、と気を取り直し、あたしは口をぐん、と曲げる。  「ちょっと、まだ、信用してないんだから。ヘンシツシャは個人情報をつかんで、それらしいことをいって安心させようとするって、こないだの安全集会で、おまわりさんがいってたもん」  「変質者?」  男は腕を目にあてて、わざとらしく泣きまねをした。  「ひどいわ、くくく」  「ごめんなさい。でもわたしたち、先生に注意しなさいっていわれてるんです」  申し訳なさそうにあんながいった。この子って、いつでも誰にでも親切なのだ。  男は泣きまねをやめて、あんなの手をにぎった。
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