第1章

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 「いや、わかってます。おじょうさん、ご心配なく。少しすれば立ち直りますから。まったく、いやな世の中ですね」  あんなはぼふ、って音を立てて、真っ赤になっちゃった。  「ちょっと」  あたしは手つなぎおにのときみたいに、チョップで手を離させた。  「さわんな、っていってんだろ。あんなも甘い顔しない」  男のシャツをつまんで立たせた。  「ホントにおじさんかどうか、おばあちゃんに見てもらう。ついて来な」  先頭に立って、あたしはぐんぐん住宅街を進んだ。  「あれ、この道入るんだったっけ?」  後ろで男が声を上げた。  あたしがふりかえってにらむと、男はにやにや、いい訳をする。  「いや、あんまり久しぶりなんで、道がわかんなくなってる」  そんなのってありえる? 自分の住んでた家がわかんないなんて。やっぱり不審者だ、変質者だ、ロスツキョだ。  あたしはあんなにささやいた。  「あんな、いざとなったら、ダッシュで逃げるからね」  あんなは、とろんと首をかしげる。  「でも、そんな悪い人には見えないよ」  「甘い! あんな甘すぎるよ。おしるこにはちみつと砂糖かけたぐらい、大福にメープルシロップとピーナッツバターかけたぐらい甘いって」  「あ、それチョーおいしそ」  うれしそうな顔のあんなに、あたしはため息をついた。気を取り直して、コートのおっさんを指さす。  「とにかく、こいつがあやしくなかったら、人類すべてあやしくないっつうの」  「失礼だなあ、みずき。おれ傷ついちゃう」  男を無視して、あたしは油断なくあたりをうかがった。  住宅街って意外と危険なんだ。あまり人が歩いていないから。これも安全集会で、おまわりさんがいってた。 〇  やっと、おばあちゃんの家に着いた。けど、  「あれ」  ドアの前で、あたしは声を上げた。戸をがちゃがちゃゆすったけど開かない。いつもは鍵なんてかかってないのに。  「買い物かなあ」  庭に回って、縁側にひざでのっかった。こっちのサッシも鍵がかかってる。  中をのぞくと、ちゃぶ台にお皿がのってて、キッチンペーパーがかけてある。  きっと、あたしのおやつだ。ここんとこずっと、あたしはこっちの家だし。  しかたなく、縁側に座って待つことにした。  「あんな、おうちで心配するから帰っていいよ」  「うん……でも」  あんなはちらっと男を見た。
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