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「いや、わかってます。おじょうさん、ご心配なく。少しすれば立ち直りますから。まったく、いやな世の中ですね」
あんなはぼふ、って音を立てて、真っ赤になっちゃった。
「ちょっと」
あたしは手つなぎおにのときみたいに、チョップで手を離させた。
「さわんな、っていってんだろ。あんなも甘い顔しない」
男のシャツをつまんで立たせた。
「ホントにおじさんかどうか、おばあちゃんに見てもらう。ついて来な」
先頭に立って、あたしはぐんぐん住宅街を進んだ。
「あれ、この道入るんだったっけ?」
後ろで男が声を上げた。
あたしがふりかえってにらむと、男はにやにや、いい訳をする。
「いや、あんまり久しぶりなんで、道がわかんなくなってる」
そんなのってありえる? 自分の住んでた家がわかんないなんて。やっぱり不審者だ、変質者だ、ロスツキョだ。
あたしはあんなにささやいた。
「あんな、いざとなったら、ダッシュで逃げるからね」
あんなは、とろんと首をかしげる。
「でも、そんな悪い人には見えないよ」
「甘い! あんな甘すぎるよ。おしるこにはちみつと砂糖かけたぐらい、大福にメープルシロップとピーナッツバターかけたぐらい甘いって」
「あ、それチョーおいしそ」
うれしそうな顔のあんなに、あたしはため息をついた。気を取り直して、コートのおっさんを指さす。
「とにかく、こいつがあやしくなかったら、人類すべてあやしくないっつうの」
「失礼だなあ、みずき。おれ傷ついちゃう」
男を無視して、あたしは油断なくあたりをうかがった。
住宅街って意外と危険なんだ。あまり人が歩いていないから。これも安全集会で、おまわりさんがいってた。
〇
やっと、おばあちゃんの家に着いた。けど、
「あれ」
ドアの前で、あたしは声を上げた。戸をがちゃがちゃゆすったけど開かない。いつもは鍵なんてかかってないのに。
「買い物かなあ」
庭に回って、縁側にひざでのっかった。こっちのサッシも鍵がかかってる。
中をのぞくと、ちゃぶ台にお皿がのってて、キッチンペーパーがかけてある。
きっと、あたしのおやつだ。ここんとこずっと、あたしはこっちの家だし。
しかたなく、縁側に座って待つことにした。
「あんな、おうちで心配するから帰っていいよ」
「うん……でも」
あんなはちらっと男を見た。
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