第1章

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 あたしはどう見たって、ゆるふわ女子ってタイプじゃあない。クラスで一番背が高くてやせっぽち、冬でも真っ黒に日焼けして、ショートカットはもれなくねぐせ付きだし、ファッションは一年を通して、たいがいジーンズとTシャツだし。  でも、おばさま、この背中の真っ赤なランドセルが見えませんかしら? フツー、それで気がつくと思うんだけどな。  けど実は、男子にまちがわれるのって、けっこうきらいじゃない。  だって、男のほうが、いろんな場面でトクな気がする。あたし、しょっちゅう「きたない言葉を使うんじゃない」とか、「落ち着きがなくて乱暴なんだから」とかって、しかられる。でも、男子だったら、その半分もいわれないと思うんだよね。  そこで、「ぼく」はにっこり笑って、質問に答えた。  「五年生です」  「やっぱり、男の子ってこういう機械にくわしいのね。それにとてもご親切」  急に耳が熱くなってきた。しかられるのはなれっこだけど、ほめられるのには、あんましなれてない。うろたえて、後ろ頭をごしごしこすった。  「いいえ、この機械、使い方覚えてないと難しいんです。うちのおばあちゃんも、いっつももんくいってます。だからあたし、代わりに切符を買ってあげるんです」  「あら?」  おばさんは口をおさえた。  あたしが「あたし」っていったから、まちがいに気がついたみたい。  そこへ、  「みみみ、みずき! ごごご、ごめん!」  急な大声に、あたしもおばさんもぎょっと顔を上げた。  すごい勢いで、若草色のワンピースが改札からすっ飛んで出た。二つにゆわえた長い髪はふわふわ宙に浮き、ローズピンクのランドセルががっしゃんがっしゃん、背中ではねまわる。  「遅刻よ、遅刻!」  ようやく、我がこころの友、あんなのご登場。  この子って、たいがいとろんとしているんだけど、今朝はそうでもない。必死の顔でかけこんで、あたしの腕をがっちりつかんだ。  ていうわけで、あたしもいっしょに走りだした。まるでリレーバトンになった気分。  「ありがとう、気をつけていってらっしゃい、おじょうちゃーん!」  ずっと後ろで、おばさんが手をふった。 〇  机やかばんやクラスメートにばんばんぶつかりながらも、あたしとあんなは、やっとこ席にたどりついた。  その瞬間に、チャイム。  今日もきのうと同じく、ぎりぎりセーフ。机につっぷして、はあはあ息をついた。
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