第1章

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 スカシの洋がにやにや笑いながら、あんなをちゃかした。  「ねねね碑文谷、それって健康法なわけ? 毎日走ってんのに、やせないねえ」  ぽっちゃりを気にしているあんなは、そういわれただけで目にじんわり涙をためる。  あんなの名誉のために強調しとくが、あんなは、全然、まったく、ちっとも、太ってなんかいない。それなのに気にするもんだから、男子につけこまれるのだ。  あたしって、考える前に体が飛び出る性格。  「おら、スカしてんじゃねえぞ、外村」  立ち上がって、洋の肩をどーんとついた。  チビの洋は、かんたんにいすから転げ落ちた。  「何すんだよ、デカ女」  転げたままで、きいきい騒ぐ。  「んだとこら、おまえがチビなんだろがあ」  まっ白なスカシズボンを、上ばきでふんづけてやろうとねらいをさだめる。そこへ、  「相川さん」  冷たい声がひびいた。  片足を上げたまま、あたしはかちん、と止まった。目の玉だけ動かして、そうっと後ろを見る。  アイスマンこと、担任の氷室先生が出席簿の角をなでながら立っていた。  洋があわてて立ち上がって、いすにもどる。  あたしも足をもどして、そろそろ席についた。  アイスマンはメガネのレンズの向こうから、あたしを見て、かすかに鼻から息を吐いた。これをやられると、自分が犬のうんこにでもなったような気になる。  先生はそのまま黒板の前に立った。  「日直」  もう五月だっていうのに、その声はこがらしみたいに教室じゅうに吹きすさんだ。あたしばっかじゃなくて、クラスの全員が肩をすぼめて、寒そうに朝のあいさつをした。  氷室先生って、おかあさんたちと女子のごく一部から、ハンサムとの評判だけど、あたしはちょっと苦手。しかるんだったら、もっと大きい声でしかればいいのに。氷みたいな目で見て、むっつり機嫌が悪くなる……やっぱ訂正。苦手の度合いは、ちょっとどころじゃないし、この先生の機嫌のいいときなんて、見たことない。  三、四年生のときなら、鈴木理子先生に出席簿で、「こら、席につかんか、この飛びはね娘」って頭をはたかれて、みんなであはは、と笑っておしまいだった。  あーあ、つまんない。  あたしは机にほおづえをつく。  先生が黒板に書いてるすきに、洋がこっちを向いておかしな顔をした。
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