第1章

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 ここでだまってたら、女がすたる。あたしは両手で目をひっぱって、べろを最長のばして、はでなあっかんべーを返した。  「ツーアウト、相川さん」  チョークの手を止めもしないで、先生がいった。  アイスマンって、後ろにも目があるの? ていうか、なんで洋はいわれないで、あたしだけなんだよ。  「スリーアウトでチェンジ。教室から退場してもらいますよ」  あたしは「いーっ」って、先生にもはでなあっかんべーをした。  もちろん心の中で、だけど。  出席をとって、提出物の確認とか、委員会からのお願いとか、いつものいろいろがあって、朝の会の最後に、先生がプリントを配った。  「警察から、安全情報が数件届いています」  教室はざわっ、とした。みんなで顔を見合う。  そうなのだ。おばあちゃんがきのう聞いてきた。このあたりでも、連続ひったくり事件があったのだ。犯人はまだ捕まっていないのだ。  「メールでもお知らせしていますが、みなさんもじゅうぶん注意してください。何度もいっていますが、知らない人に話したり、ついていったりしないように。また、手さげは車道の反対側に持ち……」  今日知らない人に、あたし話しかけたよなあ。これって、よくないこと?   そんなことを考えながら、あたしはプリントを適当に机につっこんだ。   〇  わいわい、うるさい声やらボールやらが盛大に飛びはねている、昼休みの校庭。  鉄棒んとこに、うちのクラスの女子が五、六人固まった。  「小学生女子にも、ひったくりにあった子がいるんだって」  トーテムポールにもたれて、マダム五十嵐が重々しくいった。  「これは正式に発表されてないんだけど、今度のは、ひったくりってレベルじゃない。凶悪な強盗なんだって」  マダム五十嵐は、学年一、いや学校一の情報通だ。マダムの、おかあさんの、友だちの、知り合いの、親せきが、警察におつとめしているらしい。  「強盗?」  女子たちはそろって、不安そうな顔になる。  「そ、犯人は二人組。グレーのパーカにマスクで、顔はよく見えないんだって」  すぐ横で連続ファルコンに挑戦中だったあたしは、なわとびをやめて口をはさんだ。  「マダーム、それって、さっきの安全情報まんまじゃね?」  マダムは平気のすまし顔だ。  「もちろん、そこまでは発表されてるの。で、ここからが未発表情報。やつらは武器を使うのよ」  「武器?」
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