60人が本棚に入れています
本棚に追加
「バットでなぐりかかってくるんだって。びっくりして荷物を離したところを、とられちゃう。その子のバッグには、お年玉がまるまる30万円入ってたんだって」
女子は、きゅうっとくっつきあった。
「えーっ! バット?」
あたしもおたけびを上げた。
「えーっ! 30万円? なんでそんなにもらえんの? その子、何買いに行くとこだったの?」
「知らんわ」
あたしにつっこんでから、マダムは女子たちに声をひそめた。
「こんなの発表したらパニックでしょ? だから警察はないしょにしてんの。みんなもないしょだかんね」
「何それ、こわすぎ」
「やだやだ、一人で歩けなーい」
乙女っぽい反応に、マダムはすっかり満足げだ。
「あとあと、それとは別で、変質者も出たのよ。三小の女子がね、公園で一人でいるときに、声かけられたんだって。『おじょうさん、五小のヤマダハナコさんを知ってますか?』って」
「ええ! マジ五小?」
女の子たちはぐわっと食いついた。おふをまかれた池のコイみたい。ポップコーンをまかれた公園のハトみたい。だって、五小は、まさしくわが母校のわけだから。
「うちの学校に、ヤマダハナコなんていたっけ?」
「どんな人? 変質者ってどんな感じ?」
なわとびのとびなわをふりまわしながら、あたしが聞いた。
「つうか、ヘンシツシャって何?」
とびなわが、通りがかりのスカシの洋のシャツをかすった。
「相川、おまえみたいのがヘンシツシャだ」
洋がなわをつかんでひっぱる。
すかさず、あたしはひっぱりかえす。
「なんで、おまえが口はさむんだよ。すぐ女子のところに入ってくんだから、このスカシが」
しょせん、チビの洋など敵ではない。ずるずるさんざんひっぱってから、いきなり手を離してやった。
「うわ」
洋はとびなわごとずでん、と後ろへひっくりかえる。すきを逃さずかけよって、足で砂をびしびしひっかけた。へ、ようやく、スカシズボンを黒くしてやったぜ、と、鼻の下を指でこすった。
「おまえが女子だなんて、誰も思ってねえっつうの」
半分べそをかきながら、洋は立ち上がってズボンの砂を払った。
「あんだと上等だこら、表に出やがれ」
あたしは半そでを、肩までまくった。
「はいはい、そこまでそこまで、みずき、ここはもう表だし」
最初のコメントを投稿しよう!