第1章

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 「バットでなぐりかかってくるんだって。びっくりして荷物を離したところを、とられちゃう。その子のバッグには、お年玉がまるまる30万円入ってたんだって」  女子は、きゅうっとくっつきあった。  「えーっ! バット?」  あたしもおたけびを上げた。  「えーっ! 30万円? なんでそんなにもらえんの? その子、何買いに行くとこだったの?」  「知らんわ」  あたしにつっこんでから、マダムは女子たちに声をひそめた。  「こんなの発表したらパニックでしょ? だから警察はないしょにしてんの。みんなもないしょだかんね」  「何それ、こわすぎ」  「やだやだ、一人で歩けなーい」  乙女っぽい反応に、マダムはすっかり満足げだ。  「あとあと、それとは別で、変質者も出たのよ。三小の女子がね、公園で一人でいるときに、声かけられたんだって。『おじょうさん、五小のヤマダハナコさんを知ってますか?』って」  「ええ! マジ五小?」  女の子たちはぐわっと食いついた。おふをまかれた池のコイみたい。ポップコーンをまかれた公園のハトみたい。だって、五小は、まさしくわが母校のわけだから。  「うちの学校に、ヤマダハナコなんていたっけ?」  「どんな人? 変質者ってどんな感じ?」  なわとびのとびなわをふりまわしながら、あたしが聞いた。  「つうか、ヘンシツシャって何?」  とびなわが、通りがかりのスカシの洋のシャツをかすった。  「相川、おまえみたいのがヘンシツシャだ」  洋がなわをつかんでひっぱる。  すかさず、あたしはひっぱりかえす。  「なんで、おまえが口はさむんだよ。すぐ女子のところに入ってくんだから、このスカシが」  しょせん、チビの洋など敵ではない。ずるずるさんざんひっぱってから、いきなり手を離してやった。  「うわ」  洋はとびなわごとずでん、と後ろへひっくりかえる。すきを逃さずかけよって、足で砂をびしびしひっかけた。へ、ようやく、スカシズボンを黒くしてやったぜ、と、鼻の下を指でこすった。  「おまえが女子だなんて、誰も思ってねえっつうの」  半分べそをかきながら、洋は立ち上がってズボンの砂を払った。  「あんだと上等だこら、表に出やがれ」  あたしは半そでを、肩までまくった。  「はいはい、そこまでそこまで、みずき、ここはもう表だし」
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