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五十嵐さんが間に入って冷静に真実を告げた。ひきょうものの洋は、マダムの後ろにかくれちゃった。
どっこいしょっと、マダムは話をもとにもどした。
「でね、でね、その変質者はね、金髪の中年男。春なのに長いコートを着てるの。顔には、大きなぬい目がいっぱいあってフランケンシュタインそっくりなんだって。その子は、こわくて動けなくなっちゃったの。そしたら、男は近づいて、ボタンを外して、ぶあっとコートを開いたの……」
「おおお!」
女子はいっせいにくっつきあった。洋まで、すっかりなじんでる。
と、そこへチャイムだ。
五十嵐さんは、
「あ、次図工じゃん、おくれると岡本うるさいよ」
って、校舎へ走りだした。
「あ、ずるーい、続きはー?」
笑いながら、みんなマダムを追っかけた。
図工室って、たんすの奥底から久しぶりに出てきたセーターみたいなにおいがする。
正面の黒板には、岡本先生のバクハツ文字で、「心のままに!」って書いてあった。なんでも好きなものを作っていいって意味だ。
「でさ、コートの下には、何があったわけ?」
本気で何度も聞いてるのに、マダムは笑うだけで教えてくれない。
納得いかなくて、
「ぶー!」
あたしは紙ねんどを力まかせにこねくりまわした。
「ばかだな相川。そんなの決まってんじゃん」
後ろの班の斉藤太郎が口をはさんだ。
「何? 教えてよ。斉藤太郎」
斉藤太郎は、岡本先生が遠くにいるのを確かめた。それから、こほんと、一つせきをした。
「そりゃ、変質者の基本だ。露出狂。見せたがる変態だよ」
すかさず、横の沢村がちゃかす。
「へえ、基本なんだ。ノートに書いておかなくっちゃ。テストに出るかもよ」
うるさいので、あたしは頭をはたいてだまらせた。
「ロスツキョ? で、何よ、斉藤太郎。そいつは何を見せたがるの?」
「えー」
斉藤太郎は困ったような、うれしいような顔になって頭をかく。
あたしはこぶしを固めた。
「早くいえ!」
注文どおり、斉藤太郎は早口でいった。
「ちんぽこ」
「え?」
あたしは固まった。
まわりはげらげら大笑い。マダムも口をおさえて、苦労しながらひきつってる。
「うおりゃああ!」
岡本先生が、ハンマー投げの選手みたいに叫び声を放り投げた。
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