第1章

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 「三、四班、しゃべってて作品ができるかああ。芸術とは、おのれの内面と語りあうことだぞう。そもそもだなあ……」  先生の芸術論はけっこう長く続いたけど、あたしは聞いちゃいなかった。  ずいぶん考えたけど、わかんない。  紙ねんどででっかいクエスチョンマークを作った。  「相川それ何? 題して、『快便の朝』?」  当然、沢村は再び頭をはたかれた。何度もはたかれたので、やつの髪はもう真っ白だ。  岡本先生はあっちを向いてる。よし。  手を口にあてて、あたしは斉藤太郎にささやいた。  「で、なんでちんぽこ見せんの? 斉藤太郎」  斉藤太郎はぷっ、とふきだして、ドラゴンの首がにゅるっとゆがんだ。  「知るかよ、おれが見せてるわけじゃねーし。つうか、女がちんぽことかいうな」  まわりの子たちは、ひくひく笑いをがまんするのに必死だ。  「でも、そういう人がホントにいるの。みずきだって女の子なんだから、気をつけたほうがいいね」  マダム五十嵐がきれいにまとめた。  もう、さっきまで、なんにも教えてくれなかったくせに。  力任せにひっぱったら、クエスチョンマークはぶちっ、と真ん中でちぎれた。 〇  あんなといっしょに駅まで帰った。  「あんな、あしたは寝ぼうすんなよ」  「うん」  あたしはあんなのうつむいた横顔を見た。この子、やっぱり元気ない。  「どうかした? おとうさん、転校しなさいって?」  お正月に、あんなのうちはとなりの市に引っ越した。でも、あと五年と六年だけなんで、特別に今のままの学校に通ってる。あんなは一駅だけ電車通学なのだ。  「ううん」  「じゃあ、また洋に何かいわれた? ぶっとばしとく?」  「ううん、あ……」  いいかけたのに、首を横にふった。  あたし、こういうあんなを見るたびに、肩を持ってぶんぶんゆすぶりたくなる。「あんなはおとなしくて、女の子らしくて、かわいいけど、それじゃ人生やってけないぞ」って、叫びたくなる。  でもしない。心の中で思うだけだ。  なぜかっていうと、口に出していったら、きっと泣いちゃうから……ふう、女子っていろいろめんどくさいのだ。  そう思ったとたん、あんなの目から、涙がぽろぽろあふれでた。  ええー? 今、心を読まれた? この子、超能力者か? ってびびったけど、そうじゃないみたい。  目をこすって、あんなはあたしを見上げた。
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