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「三、四班、しゃべってて作品ができるかああ。芸術とは、おのれの内面と語りあうことだぞう。そもそもだなあ……」
先生の芸術論はけっこう長く続いたけど、あたしは聞いちゃいなかった。
ずいぶん考えたけど、わかんない。
紙ねんどででっかいクエスチョンマークを作った。
「相川それ何? 題して、『快便の朝』?」
当然、沢村は再び頭をはたかれた。何度もはたかれたので、やつの髪はもう真っ白だ。
岡本先生はあっちを向いてる。よし。
手を口にあてて、あたしは斉藤太郎にささやいた。
「で、なんでちんぽこ見せんの? 斉藤太郎」
斉藤太郎はぷっ、とふきだして、ドラゴンの首がにゅるっとゆがんだ。
「知るかよ、おれが見せてるわけじゃねーし。つうか、女がちんぽことかいうな」
まわりの子たちは、ひくひく笑いをがまんするのに必死だ。
「でも、そういう人がホントにいるの。みずきだって女の子なんだから、気をつけたほうがいいね」
マダム五十嵐がきれいにまとめた。
もう、さっきまで、なんにも教えてくれなかったくせに。
力任せにひっぱったら、クエスチョンマークはぶちっ、と真ん中でちぎれた。
〇
あんなといっしょに駅まで帰った。
「あんな、あしたは寝ぼうすんなよ」
「うん」
あたしはあんなのうつむいた横顔を見た。この子、やっぱり元気ない。
「どうかした? おとうさん、転校しなさいって?」
お正月に、あんなのうちはとなりの市に引っ越した。でも、あと五年と六年だけなんで、特別に今のままの学校に通ってる。あんなは一駅だけ電車通学なのだ。
「ううん」
「じゃあ、また洋に何かいわれた? ぶっとばしとく?」
「ううん、あ……」
いいかけたのに、首を横にふった。
あたし、こういうあんなを見るたびに、肩を持ってぶんぶんゆすぶりたくなる。「あんなはおとなしくて、女の子らしくて、かわいいけど、それじゃ人生やってけないぞ」って、叫びたくなる。
でもしない。心の中で思うだけだ。
なぜかっていうと、口に出していったら、きっと泣いちゃうから……ふう、女子っていろいろめんどくさいのだ。
そう思ったとたん、あんなの目から、涙がぽろぽろあふれでた。
ええー? 今、心を読まれた? この子、超能力者か? ってびびったけど、そうじゃないみたい。
目をこすって、あんなはあたしを見上げた。
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