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問題なのは食べるときだけだから、さっと済ませた後はマスクをして、教室に戻れば良い。花粉症から来る頬の肌荒れも隠せるし、一石何鳥にもなっている。
肌荒れの薬を塗りなおそうとバッグを探っていると、突然教室のドアが開いた。
「ここにいたのか」
「内田……?」
クラスメイトの内田だった。同じ書道部ということもあり、絵麻が軽口を叩ける数少ない男子生徒の一人だ。
「昼休み、いつもいないから。聞いたら、部活の用事だって言うし」
結衣たちが、そう言ったのだろう。嘘をついていたことの罪悪感が押し寄せる。
もちろん、書道部の用事なんてないことを、内田は知っている。
「それで、探しに?」
内田は、それには答えず、教室の中に入って来た。
何も言わずに床に座る絵麻を見下ろすと、唐突に自分もその前へしゃがみ込んだ。
「内田?」
「……お前の顔、久しぶりに見た」
「えっ?」
同じクラスの内田とは、毎日教室で顔を合わせている。部活もお互い休まないから、放課後だって一緒だ。
首を傾げる絵麻を、内田はじっと見つめている。
「いつもマスクしてるから」
「あっ!」
そうだ。薬を塗ろうとして、まだマスクをつけていなかった。
顔を隠さなきゃ。マスクどこ。その前に薬……!
慌てる絵麻に、内田は床を転がる薬の容器を手渡した。
「あ、ありがと」
「なんでいつもマスクしてんの」
「花粉症だから」
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