カサコと地蔵

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『それ』が音の主だと、ひと目で分かるもの。 「……お…地蔵………さま?」 モニターには、地蔵であろう石仏が私の部屋の前へと歩いているのが映っていた。 歩いているというか、引き摺っているというか…とにかく、例のずりずりという音をたてて動いていたのだ。 突然だけど【かさこじぞう】という昔ばなしをご存知だろうか。 貧乏でお人良しのおじいさんが、売れなかった自作の笠を雪まみれになっていたお地蔵様に被せてあげたところ、お礼に色々良いモノを頂きましたとさ─という、昔ばなしとしては結構有名どころだと思うあの話だ。 『カサコ』や『カサコじぞー』という私のアダ名の元ネタでもある。 そのかさこじぞうのハイライトともいえるであろう、お地蔵様がおじいさんの家の前まで良いものを引き摺ってやってくるシーン。 まさにあの状況…と、言いたい所なんだけれど。 モニターごしのお地蔵様は、何も持っていない。 まさにその身一つでいらっしゃっている。 人生初めての一人暮らし。その初めての夜に起こっているとんでもない状況に、頭が全くついていかない。 そんな私をおいて、モニターごしのお地蔵様はリアルタイムに動いている。 とてつもなく怖いのだが、怖い故に目が離せない。     
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