第四話「ツキが逃げゆく足音を止めろ」

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 あれ、おかしいな。  瑠璃は振り返り小首を傾げた。今確かに足音が聞こえた気がしたのに。誰もいない。空耳だろうか。それとも疲れているのかもしれない。今日は残業させられてもううんざり。もしかしたら辻本部長は奥さんと喧嘩でもしたのではないだろうか。なんだかイライラしていた。その腹いせに残業させたに違いない。とばっちりもいいところだ。なんて考え過ぎだろうか。  瑠璃は溜め息を漏らして星空を見上げた。 「なんだかなぁ。私の人生これでいいのかな」  気づくとそう呟いていた。すぐにあたりに目を向けて誰も近くにいないことを確認した。よかった。誰も聞いていない。  コンビニでも寄ってなにか買っていこう。今日は作るのは面倒だ。  おにぎり二個とサンドイッチとストレートティーを買って帰宅した。 「ただいま」  真っ暗な部屋にそう言葉を投げかけたところで返事があるわけではない。なんだか余計に寂しくなってしまう。  ふとなんで結婚できないのだろうと思ってしまった。美人ではないけど、ブスでもないと思う。料理は得意だし、なにがいけないのだろう。後ろ向きになってしまう性格のせいだろうか。積極的にパートナーを探していなかったのもいけないのだろう。今更、遅いだろうか。  アラフォーになっても理想を追い求めてしまう自分がいけないのだろうか。まあいいか。ひとりでも生きていける。けど、ずっとひとりはやっぱり嫌かも。孤独死なんて言葉が浮かびすぐにかぶりを振る。余計なことは考えないほうがいい。  瑠璃は鏡を覗き込み溜め息を漏らす。どう見てもおばさんだ。確かにブスではないけど、こんなおばさんを好きになってくれる人がいるとも思えない。若かったら違っていただろうけど。  ああ、ダメダメ。なんですぐに余計なこと考えちゃうのだろう。この考え方が運気を下げてしまっているのかもしれない。前向きに、そうよ前向きに考えなきゃ。
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