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ああ、もう。なぜ、気づかない。
御朱印帳で稲荷神社のことを思い出すかと思ったのに。狐の物語の本まで落としてやったのに。
あれからもう半年も経ってしまった。狐神様に申し訳ない思いに狐は項垂れた。
しかたがない。転ばすだけじゃ気づいてくれないようだ。けど、怪我をさせるわけにはいかない。気づいて稲荷神社に参拝してくれたら願いはきっと叶えてくれるはずなのに。
狐神様は信仰してくれる者には親身になってくれるというのに。
参拝者が減ってしまって心を痛めている狐神様を見るのは辛い。狐神様を怒らせる前にどうにか気づかせなくては。
きっと年に一度の参拝だとしても喜んでくれるだろう。あの稲荷神社行けば願いが叶うとひとりでも思ってくれたら参拝者が増えるはず。
瑠璃という者は神様に好かれやすい性質のようだし、この者を逃してはいけない。
だからと言って、直接話すわけにもいかない。なるべき自分の存在は知られないほうがいい。たぶん。
ああ、どうしたらいいのやら。
狐は頭を抱えて仕事に向かう瑠璃の背中をみつめた。
あっ、そうだ。今いる瑠璃の会社を辞めさせよう。それがいい。あの会社はあまりよくない。ブラック企業とまではいかないが、瑠璃にとってあまりいい会社とは言えない。よし、それくらいしてやってもいいだろう。それで気づくかどうかはわからないけど。
きっと、気づいてくれないだろう。残念ながら瑠璃は鈍感なところがある。
狐は溜め息を漏らしつつ、瑠璃のあとを追っていった。
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