財布を拾ったぞ!

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財布を拾ったぞ!

「財布を拾ったぞ!」  スマートフォンの向こうから、安孫子さんの弾んだ声が聞こえる。俺の「マジっすか?」という返事に「まじだよ、まじ。大マジだよ」と愉快そうに答えている。 「いくらだと思う?」  安孫子さんが、なぞなぞでも出すかのように俺に訊ねてくる。  俺はいくらっすかねぇ、と答えながらアパートの部屋の中でゴロンと寝転がりながら考える。  声色から察するに、野口さんが独身で財布に暮らしていたわけではないだろう。福沢・樋口カップルか、福沢・野口コンビか、それとも大家族万歳! という感じなのだろうか。ラモーンズみたいに、福沢だけで構成されるファミリーでも嬉しいところだ。 「三万千円だよ! 一万円と五千円が二枚ずつに、千円札だ」 「フルハウスじゃないっすか!」と俺は歓喜の声をあげる。安孫子さんが、「なにそれ」と受話器の向こうで洩らしたが、「ポーカーの組み合わせで」と説明をし始めたところで、俺はもう一度ごろんと寝返りを打つ。  すると、同棲相の葵と目が合った。  涼しげな瞳に髪い黒髪がよく似合う、綺麗な人だ。     
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