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桜の木の下を歩いてきたのだろう、彼女の黒髪に、花びらが一つ、くっついていた。 真横に揃えられた前髪。長く伸ばされた後ろ髪は綺麗なストレート。 今時古風、とも謗られそうな彼女の髪は、しかしそれが良く似合う顔立ちでその批判を跳ね退けるに値する、と僕は思う。 そこにポツンと、小さな薄紅。 黒地にその色は却って鮮やかではあったけれど、無造作に一つ張り付くそれはやはり異物として浮いてはいた。 『花びら、ついてるよ』、と。 言えば、彼女に手を伸ばせるだろうか。 伸ばした手からこの想いが伝わってしまうだろうか。
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