(二)

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翌朝、飼い主は、まだ濡れて生乾きの厭な匂いのする背広を羽織って会社へ出掛けた。 おれは布団のなかで、寝たふりをしながら飼い主の身支度する姿を見送る。 戻って来た飼い主の荷物の中には、翌日と翌々日に着る為の背広が入っていた。 飼い主の留守の間に、背広を掛ける為の簡易クローゼットを買いに行った。 安いパイプを薄っぺらい布で隠す、ありきたりの。 余りに味気ないので、押し入れの奥にあった印度更紗を代わりに掛けた。 相変わらず夜は寝つきが悪い。 おれは飼い主の首筋に鼻先をうずめて、ぐるぐると喉を鳴らす。 飼い主の右手がおれの天鵞絨の背中を撫でる。 おれは自分で料理は出来ない。 飼い主は自分の肴をこしらえるついでに、おれの食事をつくる。 ほかほかに湯気のたつ食べ物におれは舌を焼きつつ、旨い旨いと顔を皿に突っ込んでむさぼる。 目を細めるおれと、飼い主と、目が合う。 飼い主は何も言わず、にこにことしながらコップ酒を呑んでいる。
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