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何度も繰り返されなくとも、この人がわたしを想って──欲しているのが、またわかってしまう。
差し出された家門さんの指先が、寂しそうにひらひらと動いた。
「……なあ。あんたの声で、聴きたいんやけど……な」
「ずるいですよ……」
やっとの思いで口にできた言葉は、そんなものだった。
「なにがや」
「ずるいです。そんな……そんな優しく甘えた声を出したって」
「おん?」
ごくり、と息を呑む。
「そんな声出したって、この間の夜がなかったことになるわけじゃ……」
「それはそうやな」
力なく、彼は笑う。
いつも年齢より幼く見える家門さんは、疲れ切っているせいか、今はすごく年上の男性に思える。
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