終章

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終章

  まさか、三代そろって同じ願いをしてくるなんて、 誰も想像していなかったわよ。 そろいもそろって、しつこいし。 ……しつこかったけど、 そろって、わたしを必要としてくれた。 わたしの声を聴いてくれた。 各々の、夏の日。 わたしの声をずっと聴いていたんだ、 なんて言ってきた。 そして、力になりたいと言った。 彼らは、いつもわたしのそばに腰掛けて つまらなそうに本を読んでいた。 時々わたしを見上げながら。 そろそろ、自分のことを 認めてあげないと、彼らに申し訳が立たないわね。 彼らのおかげで、わたしは こんな歳になっても 毎年「きれい」と賞賛されるのだから。 土の奥底、それぞれのつまさきに感じるぬくもり。 それは、彼らの想いであったり彼ら自身であったりする。 瞳を閉じて、その優しさを全身で感じ、 主役でいられる期間を楽しむとしよう。 わたしは、桜。
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