ーねぇ、信じてよー

2/6
前へ
/10ページ
次へ
……どうしてかって。 顔の筋肉を初めて使う人のように、 ぎこちなく、とびきりの笑顔をつくる。 …だって、 きみは、 優しいじゃないか。 いつだって、多くの人の物語に彩りを与えている。 与えないときだって、あるわ。当然。 不可能なときもあるだろう。物理的にね。 でも、それでもきみは いつだってそこで繰り広げられる小さな物語を支えてきた。 支えてきたし、想いを遂げさせてあげようと願っているじゃないか。 ……だから、ぼくの想いも叶えさせてくれると思ったんだ。 彼女はすこしからだを揺らして、かさかさ笑う。 その、当然と言わんばかりの口ぶり。ばからしい。 そんな保証、どこにもないのに。 …わたし、優しくなんかはないのよ。 いつも、見ているだけ。 ……それに、あなたみたいにわたしのことを気にかけている人なんて めったにいない。わたしは、いるようでいない 背景みたいなものなんだから。 ぼくは、彼女が自分を卑下しているのがつらくて、 たまらない気持ちになる。どうして、そんなに自分を低く見積もってしまうんだ。 この世界の人々が、きみをどれほど愛しているか知らないのだろうか。 ぼくは、全力で伝えたい。 きみがあきれて納得するまで、主張するつもりだ。 その覚悟をもって、今日は寝間着まで持ってきてしまった。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加