俺のヴィーナス

2/16
前へ
/105ページ
次へ
博多駅からほど近い路地裏に、白壁にワインレッドの重厚なオーク扉が映えるバーがある。 高級感漂う佇まいと、内部が窺い知れない造りから入りにくい雰囲気だが、ある一部の人の間では有名な店である。 テーブル席が3つとカウンターだけの狭い店内には女性客しかいない。新たに入ってくるのも女性ばかりだ。そして、そこここで交わされる甘い言葉。――そう、ここはビアンバーだ。 白百合が咲く店内で、俺はにこやかに注文を取っている。 女の園に立ち入りを許されている理由は、俺の母さんがここのオーナーだからだ。 そしてカウンターの中でドリンクを作っている女性は店長の美咲さんである。 彼女は母の恋人……いや、妻というほうが正しい。 二人は俺が中学一年のときに出会い、恋に落ちた。 母さんは結婚したあとで自分の性癖に気付いたが、子供もいるのでひた隠し、隠したまま一生を終えるつもりだったらしい。 そんな母さんの心を解放したひとが7歳年下の美咲さんだった。 まぁ、言ってみれば彼女は両親の離婚原因だ。
/105ページ

最初のコメントを投稿しよう!

273人が本棚に入れています
本棚に追加