俺のヴィーナス

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テーブル席で片手を挙げている女性の注文を取って美咲さんへ伝える。 「シンガポール・スリングとソルティー・ドッグお願いします」 頷いて、シェイカーにジンやレモンジュースを手早く注いでいく美咲さんが、横目で俺を見てふっと微笑んだ。 「智典、なんだか顔つきが変わったわね」 「え、そうですか?」 ペタペタと自分の顔に触れる俺に、美咲さんはくすくす笑ってシェイカーを振る。 「楽しそうな顔をしているわ」 「わかりますか?」 「ええ、イキイキしてる。何かやりがいのあるものを見つけたのね」 「はい。最近すごく充実しています」 「ふふ、素敵ね。頑張って、応援してるわ」 ああ、本当に美咲さんは素晴らしい女性だ。 口うるさい母さんとは違って何事にも寛容で、相手のことをありのままに認められる。そんな得難い美点は、彼女の美しさをさらに引き立てている。
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