俺のヴィーナス

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午後から休講になったその日、たまたまジムの前を通るルートで帰っていると、ジムの敷地を掃いている男を見かけた。 年齢は30代後半くらいだろうか。短く刈った黒髪、まばらに生えた口髭、ずんぐりした身体つきの冴えない風貌の男だった。 その瞬間、俺はなぜか雷に打たれた。 本当に自分でもよくわからないのだが、そのおっさんが、信じられないほど美しく見えた。 俺の視力はかなりいい。 200m先の通行人の口元のホクロさえはっきりと見える。両目6.0を超えていると自認している。アフリカの狩猟民族に負けないかもしれない。 なのにどうしてか、どっからどう見てもただのおっさん。街頭100人アンケートでも全員が「どこにでもいるただのおっさん」と答えるであろう彼が、地上に顕現したヴィーナスに見える。
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