俺のヴィーナス

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俺のヴィーナスは、掃除を終えてジムの中へ入っていった。 俺はもちろんアルミ格子がはまった窓から中を覗いた。 室内の半分はリングで埋まっており、その横のさほど広くないスペースにサンドバッグが吊るされ、ミットなどボクシングの練習道具が置かれた棚がある。 ヴィーナスは飴色の板床にモップを掛けて道具の手入れを終えると、おもむろにジャージの上着を脱ぎ、タンクトップ姿になった。 ドキドキしながらもっと脱げと思っていたが残念ながらそれ以上は脱いでくれず、ざっとテーピングしてグローブをつけるとサンドバッグを叩き始めた。 思わず息を呑んだ。 ずんぐりした体型からは想像もつかない敏捷さで、シュッシュッと拳を突き出す。 けれどサンドバッグは横には揺れない。縦揺れしている。それはパンチが軽いからではない。バッグの振動の仕方や、ガラス越しでも聞こえてくる上部の金具の悲鳴がそれを伝えている。 スパン! スパン! と、打撃音が鳴るときには拳が素早く引かれている。だから大きく揺れないのだ。 彼は、ボクサーなのか。
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