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慎重な面持ちで問いかける光太に、隼士は当然のごとく答える。光太は栗色の髪を揺らしながら、ヨシ、と頷いた。
「じゃあ、コイツは?」
続けて光太がこちらに向かって指を差し、同じように尋ねる。
朝陽はゴクリと息を呑んだ。
「さぁ……光太さんの知り合いですか?」
瞬間、絶望が舞い降りた。見慣れたはずの端麗な顔が、どんどん遠くなっていく気がした朝陽は、我を保つためにグッと拳を握り締める。だが、それはすぐに動揺に屈して震えた。
「朝陽、今すぐ先生呼んでこい」
「分かり……ました」
こちらをチラリと見てから短い息を吐き出した光太が、朝陽に指示を出す。
正直よく言ってくれた、と朝陽は光太に感謝した。今、どんな顔をして恋人のことを見たらいいか分からない。
朝陽は無言のまま病室を出ると、バクバクと高鳴る心臓を堪えながらすぐにナースセンターへと行って事情を話した。
それからすぐに慌てた様子の医師と看護師が病室に飛びこみ、緊急の診察が始まる。
診察が終わるまで外に出ているようにと言われた朝陽と光太は、病室が並ぶ廊下の壁に背を預けながら、お互い掛ける言葉が見つからない時間を過ごした。
その間、朝陽は先程の隼士の顔を脳裏に過らせながら、一人、胸の内で状況を纏める。
『君は一体誰だ?』
もしもあの言葉が冗談でないのなら、隼士は朝陽のことを忘れたことになる。
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