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 十二年前に高校で出会ったことも、卒業の時に告白してくれたことも、昨夜プロポーズしてくれたことも全て。 「っ……」  信じたくない現実に、得も知れぬ恐怖が胃の奥から込み上げてきた。まるで自分の存在そのものが消えてしまったような感覚に、息の仕方さえ忘れそうになる。  ただ――――。  不思議なことに、こんな状況下にも関わらず朝陽の心は別のことを考えていた。  もしも隼士の記憶喪失で、このまま記憶が戻らないとなれば、自分たちは今後新たな関係を築いていくことになる。勿論、その場合、隼士に二人の関係を告げて、再び恋人として歩んでいくのが普通だろう。  だが。  今の二人には、もう一つの選択肢がある。  それは、これを機に友人同士に戻る、という選択だ。  正直、自分でもバカげた考えだと思う。わざわざ愛している人間を手放すなんて、通常なら絶対に考えない。それでもこんなことを考えてしまうのは、朝陽がこの十年、ずっと『将来、弁護士を経て裁判官になりたいと言う隼士の人生を、自分が独占していいのか』という不安を抱き続けてきたからだ。     
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