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 唐突に呼ばれ、驚いて顔を上げると共に待っていた光太が、何も言わずに小さく顎を動かして病室を差した。 「医者と看護師は出て行ったぞ。もう入っていいらしいけど、お前、大丈夫か?」 「……大丈夫です、一緒に行きます」  光太の優しさに感謝しつつ、壁から背を離す。そして、そのまま先に病室へと入っていく光太背を追いかけながら、朝陽はそっと自分の指に嵌まる銀色を抜き取った。  これが自分勝手な決断だということは重々承知だ。けれど隼士の人生を軌道修正させるなら、今しかない。 「この、クソはーやーとぉぉぉ! お前、十二年来の大親友様を忘れるとは、いい度胸だなぁ?」 「ぬぅわっ、痛っ、ちょっ、お前、何す……」       ズカズカとわざとらしく足音を立てながら近づき、朝陽は隼士の両頬を指で思いきり掴んで左右に引っ張り、盛大な文句を吐き散らす。
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