1.心底邪魔な恋敵

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1.心底邪魔な恋敵

 香ばしく、さわやかな酸味のあるコーヒーの香りが染みついた年代ものの壁紙、赤いビロード張りのソファーに年季の入った木製のテーブル。目に映るものすべてに温かさを感じる小さな喫茶店『プラエトーリウム』は、路地の奥にひっそりと建つ秘密基地のような店だ。  この店の常連といえばもっぱら近所の老人ばかりで、賑わうのは昼過ぎまで。夜も八時を過ぎればほとんど客は現われない、そんな緩やかな時間が流れる場所で――――なぜか不似合いな口論が飛び交っていた。 「だからぁ、玲一さんはオレのだって言ってんだろ」 「いいや、玲一の恋人に相応しいのは俺だ」  店内に他の客どころか店主すらいないことをいいことに、高瀬昴と能條真哉の二人が遠慮なしに言いたいことをぶつけ合う。 「なにが相応しいだよ。この自意識過剰男が」 「自意識過剰ではなく、ただの事実だ。いいか、俺はお前みたいな貧乏大学生と違って、財力も地位もある一人前の男だ。どこから見ても玲一を幸せにできるのは俺しかいない」     
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